身体検査
 楽しい入隊式も終わり… なんとなく『節度』と『緊張感』が抜けた。 たった数日で同じ区隊・同じ班・同じ部屋の隊員同士、抜けた節度と緊張感の代わりに穴埋めされたのは『馴れ合い』という言葉でした。

 そう! 生きてきた環境は違えど、ほとんど同級生。 ほとんどが地元出身者。 意気投合するまでに時間は必要ありませんでした。 同級生が何の躊躇いもなく目の前でタバコを吸ってても、それが普通に思えてしまう。 
 ただし…これが他の班ともなれば妙な緊張感が走る。 他の区隊ともなればなおさらの事。 見慣れない他の班の隊員からは挑発的な態度をとられる事は多少ありました。
 だから、できるだけ他の区隊・班の部屋には近づかないように…自然に学習していた。 それは全隊員が思っていた事だと思います。
高校から一緒に行った親友とは、自然に疎遠になってしまった。

 まぁ他の班の所に行く用事も暇も無かったので、特に気にはならなかったですがね!

 そんなワケで、食堂から部屋まではタラタラと歩いて戻りました。 午後からは身体検査です。 青いジャージ上下に全員着替えて昼礼に向かいます。 全隊員『ご気楽モード』です。 午後の予定は『身体検査』の一文字なので、今日一日が終わったも同然。 

 昼礼も済んで、午後の課業開始のラッパと共に体育館に向かいます。 体育館の中で区隊・班で整列。 さらに後日渡される『身分証明書』(警察手帳と同じ効力を持つ)に刻印される認識番号(米兵がドッグタグに刻印してる数字と同じ)順に並ばされて、検査をこなします。

 身長・体重・視力・聴力・肺活量… 学生時代にやってきた身体検査そのもの! なんら変わりはありません。

 がっ! 性病検査と痔の検査という悲しくも恐ろしい検査が最後に待っていました。

 全員、ズボンとパンツを脱いで…検査カード1枚で前を隠して検査員の前に並びます。 スッゲー惨めな男達の光景が目の前に並んでいます。 僕は何が始まるのか全く予想できませんでした。
 そして一番前に並んだ隊員が突然、検査員にチ○○ンを触られ始めました。 後ろからではよく分からなかったけど… 隊員の腰は45度くらい引いてます。 そして『まわれ右』をさせられ…泣きそうな顔をして四つん這いになってオシリを高々と上げさせられました。 しかも検査員はオシリを広げて覗いています。 

 僕は帰りたくなりました。 しかし順番は刻一刻と迫ってきます。 一番最初の隊員は、さぞや辛かっただろうなぁ。

 そして僕の番がきました。
検査員は消毒液で手を洗い… まず先っぽを観察されました。 性病などがないか検査したのでしょう。
そして玉を握られた。 これには正直驚きました。 「なんの為?」と思ったけど… どうやら玉は2つ無ければマズイらしい。 握り方が悪いから痛かったよ。
そして『まわれ右』をして四つん這いになりました。 「馬鹿野郎!」と叫びたいくらい、両親指で肛門を広げられて痔の検査終了。

 余裕で受けた身体検査に、こんな凄いオチが待ってたなんて…。
でも終わってみれば互いに大笑い。 全員『男』だからできる身体検査だもんね♪ 

 ここだけの話… 何ヶ月か後に、女性自衛官と飲む機会がありまして… この話で盛り上がった時に教えていただいた事ですが…
どうやら女性自衛官も似たり寄ったりの身体検査を受けたそうです。 酔っていたので結構リアルに教えてくれました。 リアル過ぎてとてもこの場で書く事はできません。


 身体検査が済んで、各区隊ごとに事後の指示が出されました。
なによりも嬉しい指示である『身辺整理』という指示。 『身辺整理』とは読んで字の如く…自分の物の整理整頓。 僕らは、ちょくちょくあった身辺整理という指示を『休憩』とも受け取ってました。 

 部屋に帰る道中も身体検査の話題で盛り上がりながら歩きました。
そして… そして、部屋に戻って恐ろしい光景を目の当たりにし… 全員が凍りつきました。 その光景を見た時が天国と地獄の境界線!

 第10章からは、笑いと余裕と楽しみの自衛隊から… 血と汗と涙の自衛隊へと物語は進みます。
by606