81 念願の新兵配属
 僕の部屋だけ…  同期生で僕だけ新兵が部屋に来なかった3ヶ月前。  それから更に3ヶ月が過ぎた。


 今度は12月隊員が後期教育期間を終了して、我が中隊には2名が配属される事になりました。  2名!  これまた微妙な人数だなぁ。  中隊の陸士部屋は3つ。  必ず1部屋は新兵が入らない計算。  もっと最悪なのは2名同室という事態も想定できる。  だけど先回入ってこなかった僕の部屋にまた誰も来ない事は考えれないし…  もしかしたら2名入るかも知れない♪


 (T。T)長かった。  同期生の倍も部屋で下っ端を強いられた生活。  誰でもイイから入って来い!  もう二度と断るんじゃねーぞ先任士長さんよーっ!


 そうこうしているうちに僕の部屋に補給陸曹がベットを1つ運んで来た。
 名前はもの凄く珍かったのを覚えています。  あまりに凄い名前だったので、20年以上経った今でもフルネームを覚えているぐらい!  たぶん一生忘れられない名前だと思う。  今まで登場してきた人物は全て本名に似た名字を使ってきているけど…  この新兵だけは省略できない。  とりあえずB二士とさせていただきます。


 「本多ぁ〜。 一番大人しそうで真面目な奴を選んでやったでなぁ〜!」と部屋の先任士長が恩着せがましく僕に言い放った。  「テメェのせいで3ヶ月も長く新兵をやらされて何だぁその言い草はぁ?」と心の中で叫びつつ…  「お気遣いありがとうございます。」としか言えなかった縦社会だった頃の自衛隊。


 コンコンとドアをノックして、「B二士入ります!」と元気良く部屋に入ってきたB新兵。
 w(@。@)w こいつ栄養失調か?と目を疑ってしまうほど痩せている。  顔は正気がなく、覚せい剤常用患者を思わせた。 
 「はじめまして! 山口県○○市から来たB二士、23歳です!」  (>。<) 僕よりも5つ上だよ。


 部屋の先任士長が一人ずつ部屋の班員を紹介して、「以上、分からない事があったら本多に聞くように。」と〆た。  B二士は「本多一士!宜しくお願いします! なんでもヤリますので、遠慮なく言ってください!」
 (^0^)おほほほ♪  なかなかイイ奴じゃん♪  やっと部屋の雑用から抜け出れた♪  「はい。 楽しく仲良くやっていきましょうね。」と笑顔で迎え入れました。


 B二士は、その日から僕が今までやってきた雑用を1つ1つ僕について覚えていきました。  年齢差は自衛隊には関係ありません。  5歳年上の相手であっても階級が下なら敬語は必要ありません。  かと言って威張るような教え方はお互い嫌だもんね。  僕が新兵で入った時は、アゴで使われて自分がヤルべき事まで押し付けられたから…。  自分がやられて嫌な事は、他人だって嫌!  慣れ合いは好きじゃないから優しくはしないけど、嫌がられることもしない。  そんな気持ちで雑用を申し送りしました。

 
 その日夜は妙な緊張感と明日からプチ自由の身になれる喜びが入り混じってなかなか寝付けなかった。  「どうしてそんなに痩せているのか?」  「その歳になるまで、どんな仕事をしてきたのか?」  「どうして自衛隊に入ったのだろうか?」  B二士からはいろいろ聞きたかったけど、他人の事を根掘り葉掘り聞くのは良くないと思ったので黙っていました。

 ただ…  寝る前に大量の薬を飲んでいた事だけが、妙に気になった。


 翌朝、起床ラッパで部屋の電気を一番に点けなければいけない事を言ってあったのにB二士はフラフラで起き上がれなかった。  「こいつ絶対なにか変!」  僕は目覚める時のB二士の顔を見て恐ろしいほどの胸騒ぎがしました。  B二士の失敗は、そのまま僕の失敗になります。  とりあえず僕が電気を点けて、「B二士、眠くても頑張って起きてとりあえず電気は点けるようにね!」と促した。  「すみません本多一士!すみません!」と今にも泣きそうな声で僕に謝った。


 廊下で点呼を済ませて部屋に戻ったら二度寝体制に入るB二士に驚愕!!  僕は今まで朝の点呼(06:00)が終わって朝礼(08:00)まで朝飯食う時以外は一度も休む暇すらなく雑用に追われていたぞ。  これには部屋の者全員が驚いた。  ただならぬ空気を全て僕が背負う運命。  「B二士? 朝は言った通り、直ぐにポットに湯を入れて部屋の者全員にコーヒーか紅茶を作るんだよ。 給湯室も湯沸かし器の使い方も昨日教えたでしょ!」と言うと、「すみません本多一士! すぐにやります!」と言い残してポットを持って部屋を出て行きました。


 B二士が出て行くと部屋の者から一斉に「本多ぁ、ちゃんと教育せーよ!」と叱られた。  自衛隊なんてそんなものです。


 とりあえずキチンと雑用がこなせるまではB二士と行動を共にしなければならない。  一晩で覚えれるような雑用が何故B二士にはできないのかが不思議だった。
 朝礼が終わるまではB二士に付いて雑用をこなした。  やる事を僕が分刻みで書いて渡した紙切れをB二士は大事そうに見ながら雑用を覚えていました。


 お昼休みも(12:00〜13:00)、課業後(17:00〜21:00)まで、ずーっと横で教える事1週間。  なんとか自分一人で雑用がこなせるようになった。  班長のパン取りも、靴磨きも怒られながら一生懸命やっていた。


 『やっと普通の生活ができるようになったある日。』  中隊長から信じられない試練を受ける任務を授かる事になった。
それが次回から連載する『新隊員教育隊』の班長の下で働く『班付』という任務。  僕より丸一年後輩となる3・4月隊員の教育隊を受け持つ事になった。
 『班付』という任務は班長のお手伝いという軽い位置の任務だったので、笑顔でOK♪  班長は大変だけど、班付は今まで前期と後期で見てきて、どんな仕事をするのか分かっていたので笑顔でOkでした。


 ところがこの教育隊を受け持つ任務がとんでもない日々の連続になろうとは!!

 更にB二士がとんでもない事になろうとは!!

 こんな事… 『やっと普通の生活ができるようになったある日』には想像もできなかった。  嵐の4ヶ月間を迎える前の静けさ…。  本当に平和で静かな日々は短かった。
by606