72 正門の警衛
 『警衛』 いわゆる『門番』みたいなものですね。

 青野ヶ原駐屯地では営門(正門)・訓練所・弾薬庫と3箇所に別れて24時間体制で外部からの侵入や脱柵(隊員が逃げる事)を監視する仕事です。  営門・訓練場・弾薬庫の警衛は一個中隊が全て受け持つのが基本ですが、時々他の中隊の隊員と合同で行う事もありました。  他中隊と合同だと非常にやりにくかった事を覚えています。


 勤務時間は午前8時半から翌朝の午前8時半。  警衛司令なる偉い幹部及び上級陸曹の指揮の下、駐屯地のど真ん中から正門近くの警衛所まで行進します。  その時は勤務中の警衛隊(下番)も警衛所の前に整列をして、警衛指令に交代の報告をします。
 まず先に勤務中だった警衛隊から申し送り事項を述べ…  その後で交代する警衛隊(上番)が申し送り事項を復唱して、口頭での申し受けを完了します。


 以上が済んだら一段落♪  警衛所で一番先任となる陸曹が書類の整理やら実弾の数を点検。  営門の警衛所には50発ぐらいの実弾が置いてあったのを覚えています。
 実弾を使わなければいけないような非常事態が起きても、絶対に使えない実弾。  どうせ使えないのなら置いてある意味がないのでは?  ガラスケースに鍵がかけられて厳重に保管されてはいるものの…  小石で叩けば直ぐに取り出せる64式自動小銃の実弾。  

 頭のおかしい隊員が突然キレた時…  半径5メートル以内に64式自動小銃と実弾50発が目の前にある。  それで安全か?  もっと怖いのは弾薬庫の警衛。  ←まぁこれは次の次に書くとして♪


 僕達(陸士)の昼間の仕事は、正門に警棒を持って立つ任務・部外者の立ち入りを把握する任務・警衛所の前に座って誰かが通る時に敬礼をする任務の3つぐらいです。


 【正門に立つ任務】
 夏でも冬でも人が2人ぐらいしか入れない小屋の中で2時間立ちっぱなし!  隊員なら身分証明書、外部の人なら立ち入り許可証を提示するので、しっかりと確認して人が通る小さな門を通過させます。
 隊員の親族や友人などの面会者が訪れた時は警衛所に声をかけて通過させます。
 一番大変なのが車が来た時です。  正門はもの凄く頑丈な門が常に閉められています。  装甲車や駐屯地関係の車が来たら、一人で開け閉めを行わなければなりません。  冬は体が温まるけど…  夏は汗びっしょりになります。

 また、朝と夕方のラッシュ時もスッゲー忙しかった。


 【部外者の立ち入りを把握する任務】
 受付カウンターみたいな所に座って応対するのがメイン。  誰も来なければ座って喋っていればイイだけの仕事ですが、とんでもない人を入れてしまうと駐屯地を爆破される事もあるので…結構大変。  
 許可証を配布して、その許可証が戻ってこなかったら大責任!


 【警衛所の前で座って敬礼する任務】
 これが一番気楽な任務。  誰かが通る時に笑顔で軽く敬礼をするだけ。  ただし…  徒歩で通過する幹部はもちろん、装甲車やジープの助手席に幹部が座っていた時は、大きな声で「きょーつけー!」と発して警衛所に居る全隊員が姿勢を正して、陸曹が奥から立ち上がって敬礼をします。  歩いて通る幹部・入って来る装甲車やジープは助手席側がこちらにあるので確認し易いですが…  駐屯地を出ようとする装甲車やジープの助手席は運転席の向こう側になって見えません。  時々普通に敬礼するだけの失敗をします。  もちろん後で怒られますが…。


 昼間はその3つの繰り返し。  御飯は警衛司令の指示で交代交代済ませます。

 この警衛で一番の華は…  駐屯地司令(一等陸佐)が官舎(自宅)から来る時と帰る時です。  駐屯地司令はわざわざ専用車から降りて歩いて警衛所の前を通過します。  その時、警衛所の前に全隊員が整列して『捧げ銃』(ささげつつ)!  警衛司令はスッゲー大きな声で「服務中異常なし!」と叫びます。  異常なんてあったらこんな暢気な儀式はしてられません。  「ご苦労さん!」と駐屯地司令は言いながら、正門に立っている隊員の前を通過します。  正門でも「服務中異常なし!」と叫ばなければなりません。  駐屯地司令の専用車が出入りする時だけは正門は開いたまま。  再び専用車に乗り込んで見えなくなるまで警衛所の隊員は不動の姿勢です。

 カッコイイけど疲れるね(>。<)@


 官舎に帰る隊員のラッシュが終わったら夜の任務に移行します。  3直制で仮眠(2時間)、柵沿いの歩哨(2時間)、柵沿いからの定時電話の記録(2時間)を2回繰り返します。


 【仮眠】
 午後6時からの仮眠に当たったら最悪です。  眠れませんよ!  寝るときは何が起きても直ぐに対処できるように半長靴を履いたままベットで眠ります。  巾着袋を半長靴に被せてね。
 ただこの時に使う毛布はスッゲー汚いし臭かった。  なにせ警衛隊は風呂に入れないんだもん!  そんな隊員が毎日繰り返し繰り返し使っている毛布はあまり深く想像したくなかったです。


 【歩哨】
 約2時間、小銃を肩に担いで二人で10mぐらいの間隔をとって駐屯地の外柵沿いを歩きます。  所々に有線電話が設置してあるので、そこから警衛所に「異常なし!」と電話します。  さらにその電話BOXの中には紙が入っていて、連絡した時間を記入するようになっています。  さぼれない仕組み♪

 夜中は腕章を巻いた上級陸曹も巡回しているので、その上級陸曹と鉢合わせになったら面倒。  物陰に隠れて上級陸曹を誰何(すいか)しなければなりません。  これにはある程度のマニュアルがあるので、学芸会ぽく行えば問題ないのですが…  意地の悪い上級陸曹に当たると大変!  突然逃げたり、何も言わずに通り過ぎようとするから困ったものです。

 一緒に組んだ隊員が真面目な隊員だと駐屯地内を時間のある限り何周も歩かされたりします。  不真面目な隊員だとウォークマンを聴きながら歩いたり、自販機でジュースを買って隠れて座って休憩して1周して終わったりしました。

 もっと不真面目な隊員と組むと、一人で歩かされた時もあったほど!  その隊員は更に2時間の仮眠。


 【電話番】
 これは睡魔との闘い。  夜は呼び出し音は鳴らないようにしてあって、小さな赤いランプがチカチカと短時間光るようになっている。  目を閉じたら確認できない。  警衛所で起きている隊員と喋ったりして眠気防止。
 もちろん夜間も正門は閉めっぱなしなので、車が来たら開けなければなりません。

 この電話番をしている時に、外出していた隊員が帰って来るとお土産をくれるから楽しいです。


 そんなこんなで何事もなければ普通に夜が明けて交代です。  そして交代した日は一日休み。  翌日が日曜&祭日だと代休が1つ付いて、いつでも休めます。
警衛明けは30分間だけ朝風呂に入れます。  もちろん警衛隊だけです。  だいたい昼飯まで寝たり、洗濯したりして…午後からは元気に遊びます。


 一月に2回ぐらい回ってくるこの警衛隊は演習並みにネタが豊富です。  例えば…  右翼&左翼団体来襲!  ヌード撮影大会を中止させよ!  突然の面会者!  ヘリコプター不時着!などなど、これからも時々『警衛所』ネタをUPしますのでお楽しみに!!
by606