27 嗚呼、青野ヶ原駐屯地 其の壱
 
 皆さんから「面白いから早く更新しろ!」という励ましの言葉をたくさん頂くと同時に、○○省広報担当者からの「これ以上の更新は控えてください。」という激励の電話を頂いてる今日この頃… まだまだ匍匐更新していきます!



 万感の想いを胸に秘め… 僕らは豊橋駅から汽車(新幹線)に乗りました。
もちろん陸上自衛隊の制服・制帽着用です。 豊橋駅から姫路駅までの切符を買うわけですが、この電車賃は皆様から頂いた血税から支払われてるワケです。
 早い話が駅や港…はたまた空港で制服着た自衛官を見かけたら、この人達は皆さんの血税で乗り物に乗ってるワケ! 国家公務員ばんざい!ってなワケです。


 新幹線なんてガキの頃に親が上野動物園に連れて行ってくれて以来ではなかろうか?
今のような尖がった車体ではなく、いわゆる100系全盛期だった。 なにせ豊橋駅からは各駅停車の『こだま』しか乗れないから、各駅停車の旅でしたね♪ 三河安城駅なんてのも無かったから、次は名古屋だったし…。 
 旅行気分でルンルンだったけど、制服はテンション下がります。 ちょっぴり豚殺場に運ばれる豚さんの気分でもありました。


 新幹線の車内では暇だったので豊川駐屯地から姫路駅まで送ってくださる上官に、これから僕はどうなるのか聞いてみた。 きっと他の同期生も不安だったろう。

606: 「すみません… 後期教育とはどんな事をやるのでしょうか?」

上官: 「自衛隊はね〜 一番苦しいのが前期教育期間の3ヶ月だけなんだよ。 だからこの3ヶ月をのり越えれば後はそれほどキツくはないんだ。 後期教育は、その各部隊ごとでヤル事が違うからそれぞれだけど… まぁのんびりとした教育期間だよ。」

606: 「また戦闘訓練とか行軍とかもあるんですか?」

上官: 「戦闘訓練・行軍は普通科部隊ならあるけど、他の部隊はもう無いはずだよ。 それにベットも毎朝しっかり整えなくても畳むだけでOKだから教育隊名物の台風(居室を破壊される儀式)とも無縁だよ。 昼寝もできるし、訓練も楽しく行える。 もうそれほど厳しくないから安心して寛ぎなよ。」

同期生一同: 「そうなんだぁ♪ 良かったぁ♪」

上官: 「でもまぁ君達はどん底の階級だから節度と礼儀を忘れる事なく自衛官としての誇りをもって任務に真っ当してな。 防衛大学出た優秀な幹部自衛官ばかりだけど… 君達みたいな陸士(兵)でも頑張ればアメリカへ実射訓練に行けるかも知れないぞ!」

 
 まぁ…考えてみたらミサイルを扱うわけなので匍匐前進も行軍も必要ないわな! ミサイルの実射訓練かぁ〜。 アメリカで撃つんだぁ〜。 これまた大砲とはスケールが全然違う!!
部屋の中でミサイルの事を勉強する毎日なのかなぁ〜? 毎日ミサイルを磨くのかなぁ〜? なんにも分からないけど不思議と気が楽だった。 

 新幹線の窓から景色を眺めてる時は夢と希望に満ちた18歳の少年。 これから地対空誘導ミサイルを扱う任務に就く! こりゃ間違いなく町ではモテモテだろうなぁ〜♪ 国家公務員だし… ミサイルだし… お…俺ってもしかしたら今ピカピカに輝いてるのかぁ??
 ってトンネルに入ったら坊主頭の自分がガラス窓に映って台無し(>。<)


 新幹線に揺られて到着した姫路駅。
初めて降り立った兵庫県! 正直、地図上で今どこに立っているのか全く分からなかった。 私物の入った僅かばかりの荷物を抱えて改札を出たら年配の自衛官が出迎えた。

 「おー! ご苦労さん!ご苦労さん! 疲れてないかね?」とスッゲー大きな声で歓迎してくれた。 嬉しいよりも恥ずかしいちゅーの!

 「ロータリーに車停めてるから乗った乗った。」と… 表に出てビックリ。 (>。<)装甲車かよっ!!
てっきり普通の車で迎えに来ると思ったのに、まさかの装甲車。 しかも姫路駅のロータリーに堂々と3d半の装甲車がハザード出して駐車してある。 なんちゅー非日常的な光景なんだ。 しかもバス停で並んでる人や通行人は皆見てるし…。


 装甲車に乗ったら既に数人が乗っていた。 これまた同じ日本人なのに、どっから見ても人種が違う。 めちゃめちゃ元気でキビキビした上官が装甲車の最後尾(眺めのイイ特等席)に座って転落防止の綱を張り… 「準備よーし!」とこれまたデカイ声で叫んで駐屯地に向かいました。 そんなデカイ声出さなくても聞こえるのに…。
 豊川駐屯地から一緒に来た上官さんはUターンです。 帰りの電車賃も当然皆さんの血税から支払われ… この上官さんの一日の仕事は豊橋と姫路を新幹線で往復しただけで終わるのです。


 装甲車は幌がしてあるので、一番後ろの幌の無いところからしか景色は見えません。 だから一番後ろが一番眺めがイイのです。 
姫路市内を装甲車は走ります。 片側3車線のスッゲー広いメインストリートでした。 目立たない自衛隊色(オリーブドライ色:通称OD色)なのに市街地では真っ赤なフェラーリ並みに目立つから面白い。

 
 めちゃめちゃ元気でキビキビした上官は無口で無表情。 機嫌でも悪いのか…時々僕らの方を見ては鼻から息を抜いて再び外に目を向ける。 スッゲー重い空気。 僕らも黙って後ろを眺めてた。
大きなデパート 映画館 ゲームセンター 料理屋さん… どんどん姫路駅が小さくなり、メインストリートが終わると右折した。
お城付近によくあるお堀沿いを走った。 観光バスや観光客が多い。 走り抜ける装甲車にカメラを向けてる観光客もいた。 あ! たぶんこの上官は見られサドだ! 皆に見られて自分の存在をアピールしたがってるに違いない! きっと真面目な自衛官を表現してるんだぁ♪ と思ったら楽しくなってきた。

 お堀沿い… そこは姫路城でした。 運転席からならキレイに見えただろうけど、僕らの3等客席からはな〜んにも見えなかった。

 メインストリートを右折してお堀沿いを少しだけ走ったら、大きな工場ばかり。 そして橋を1つ越えたら… 景色は一気に田舎になった! 驚いた。 さっきまで華やかな町並みだったのに、豊川駐屯地周辺よりも田舎だ! ラブホテルの看板も和風だし、見出しがカーホテル○○とかドライブin○○になってるのには冷や汗すら流れた。

 案の定、さらに進んだら住宅というよりも民家が点々とあるだけ。 家よりもお寺や神社のほうが多い感じ。
30分以上乗り心地の悪い装甲車に揺られ… 青木ケ原の樹海を思わせるような所に青野ヶ原駐屯地がありました。 特等席に座ってた上官は結局表情を変える事なく、何ひとつ喋らず終い。 こいつはロボットか?


 正門前で僕らは装甲車から降ろされました。
そして見た光景に絶句。 (@。@)めちゃめちゃキレイな駐屯地やん!! まるで大企業の保養施設の様な建物。 豊川駐屯地ではお目にかかれなかった芝生が辺り一面に広がっている♪ 太い道が建物まで一直線! まるで天国への階段だ。 


 正門・警衛所で一列横隊に並んで敬礼を済ませて、一列縦隊で太くて広い道をやや上り気味で建物に向かう。 戦前に作られ…戦争を経験して現在に至る豊川駐屯地。 それに対して、つい最近造られた青野ヶ原駐屯地。 目に入る物なにもかもが駐屯地という固定概念を覆す。


 新隊員居室は2つ並んだ右側の大きな3階建ての建物の一番上で一番端っこでした。 メインの入り口は僕ら新隊員は使う事ができませんでした。 非常階段しか使えません。 イキナリの差別だったけど… なにせ同じ建物(以下は自衛隊用語で隊舎と表現させていただきます)には豊川駐屯地ではお会いできないくらいの階級章を付けた幹部がウジャウジャ居るそうなので、極力隔離されるみたいです。
 しかも僕ら新隊員居室の真下の部屋は駐屯地指令という、駐屯地で一番偉い人が居る『駐屯地指令室』という部屋でした。
 駐屯地指令は『一等陸佐』という階級で、昔で言う『大佐』に当たります。


 今後の為に陸上自衛隊の階級を下から順に表してみます。 ( )は旧陸軍階級。
3等陸士 ⇒ 2等陸士(二等兵) ⇒ 1等陸士(1等兵) ⇒ 陸士長(上等兵) ⇒ 陸曹候補生(伍長) ⇒ 3等陸曹 ⇒ 2等陸曹(軍曹) ⇒ 1等陸曹(上曹) ⇒ 陸曹長(曹長) ⇒ 幹部候補生 ⇒ 准尉(特務曹長) ⇒ 3等陸尉(少尉) ⇒ 2等陸尉(中尉) 1等陸尉(大尉) ⇒ 3等陸佐(少佐) ⇒ 2等陸佐(中佐) ⇒ 1等陸佐(大佐) ⇒ 陸将補(少将・中将) ⇒ 陸将(大将)


 という感じで… 陸将(大将)の上もしくは同等の位に、テレビによく登場する陸上幕僚長(陸幕)があります。
さらに上には元帥(防衛大臣もしくは内閣総理大臣) さらにさらに上には大元帥(天皇陛下)となるのかな? 実際、元帥と大元帥は自衛隊の階級にはありません。 前期教育で小隊長からの精神教育で「陸上幕僚長の上が防衛大臣で、その上が首相で、そのまた上が天皇陛下になるんだよ。」と教えられたからね♪

 これから続く自衛隊白書には上記の階級が立て続けに登場します。 なんとなく覚えてくださるか、階級の上下関係が分からなくなったらココを開いて調べてください。


 なお… 一番どん底に3等陸士という階級がありますが、これは中学を卒業して直ぐに自衛隊に入る『防衛高校』みたいな所で訓練・教育を受けた生徒(自衛隊生徒と呼ばれる)が付ける階級です。 3等陸士は僕らが受けた前期教育・後期教育の何倍も厳しい訓練を受けて自衛隊内に放たれます。 体つきはもちろん、目つき顔つきは普通ではありません。 高卒で入った隊員もしくは一般的に入隊した隊員が1年で1等陸士に昇進する頃、同い年の3等陸士は陸曹候補生に昇進する。 


 また、防衛大学を卒業したら幹部候補生の階級から自衛官を始められます。
自衛隊生徒も防衛大学の生徒も、自衛隊に入らないで普通に卒業して就職する事が可能なのです。 奥が深いんです。

 なににしても我ら2等陸士はどん底の階級なのだ!
by606