26 進路決定と新隊員課程前期教育修了式
 授業中はもちろん放課後も一緒に遊んでた友達は豊川駐屯地で大砲撃ちに決定。 その頃ほとんどの隊員が今後の進路を決定してるのに僕はなかなか決められなかった。

容量の少ない頭で考えた結果が… 第一希望:第10特科連隊(通称・10特)高射大隊(通称・第6大隊)豊川駐屯地内。 第二希望:機甲科(戦車)駐屯地は何処でもいい! という進路でした。

 同じ第10特科連隊・野戦特科(大砲)の中にも戦闘機を撃ち落す高射砲(高射機関砲)の部隊がある事を知りました。
『大砲』よりも『高射砲』のほうが聞こえがイイもん♪ 授業中はもちろん放課後も一緒に遊んでた友達も豊川駐屯地だし… これで毎日一緒に遊べるし、毎晩一緒に飲める♪ 全ての条件が揃って、希望が通れば願ったり叶ったりの進路だ。
 どうせなら個性的にカッコ良く自衛隊をやりたいもんね!

 どこかで「自衛隊さん? 自衛隊で何やってるの?」と聞かれて「大砲撃ってます!」と答えるよりも「高射砲撃ってます!」と答えた方がカッコ良いもん。 いや〜明るく素晴らしい自衛隊生活やね♪ 3ヶ月前はお先真っ暗状態だったけど… ようやく光が見えてきたよ!

 夜の掃除が終わって消灯までの時間に班長室に呼ばれました。
班長: 「此処の高射特科が希望みたいだけど、残念ながら10特の第6大隊は募集をかけてないんだわ。」
606: 「そうですか…。 では機甲科なのですか?」 (606的にはどちらでもOK)
班長: 「あ…いや… 一応、高射特科で募集をかけてる部隊があるので、そちらでどうかな?」
606: 「豊川駐屯地じゃない高射特科ですか?」
班長: 「高射特科でも高射砲とかじゃない地対空誘導ミサイルを扱うホーク部隊なんだけどね…。」

606心の叫び :「ホーク部隊?? ミサイル?? めちゃめちゃカッコ良いんでないかい!!」

班長: 「兵庫県にある青野ヶ原駐屯地の第8高射特科群になるけど、どうかな?」
606: 「兵庫県ですか! 遠いですね。」
班長: 「遠いと言えば遠いけど… 北海道よりは近いわな。」

606心の叫び: 「いや〜なんかスッゲー事になってきたぞ! ワクワクするなぁ〜♪」

606: 「自分なんかに務まる部隊なのでしょうか?」
班長: 「自衛隊の中では一番新しい駐屯地でキレイだし、幹部が多い駐屯地という情報ぐらいしかないね。」

606心の叫び: 「新しい駐屯地♪ キレイな駐屯地♪」

606: 「わかりました。 第8高射特科群でお願いしまっす!」
班長: 「じゃあ決定だな! 3区隊からも1名行くから仲良く頼むぞ。」

606心の叫び: 「ちっ! 僕だけじゃなかったんだ。 せっかく目立つと思ったのに…。」

 という感じで進路決定。 授業中はもちろん放課後も一緒に遊んでた友達とは、この3ヶ月間ですらほとんど遊んでないのに…離れ離れになる事も決定。 この友達と僕が同じ給料で明暗を分けた進路決定でした。


 それから数日後に各区隊ごとにお別れ会が行われた。 2区隊は駐屯地から歩いて15分ぐらいの料亭。

初めて顔を合わせた時は誰もが皆敵意むき出しだったのに… この3ヶ月で仲間以上の仲間。 同じ釜の飯を食い… 同じ苦労をし… 同じように泣き、同じように笑いあった。 
 全国にある教育隊ではきっと同じようにお別れ会が行われているに違いない。 同じように前期教育課程の修了間際。 2区隊36名と同じような教育隊が各地に存在してるはずだけど… 僕はこの2区隊1班・2班・3班の団結力は全国どこの教育隊にも負けないと思った。


 そんな2区隊のお別れ会… 最初はゆっくり飲んで喋って笑いながら進行していたけど、酔いが回ればドンチャン騒ぎ! 豊川駐屯地に残る仲間が多かったけど、僕は100%皆とお別れ。 北海道に行く隊員とはスッゲー離れてしまう。
 そのうちに酔った一人の仲間が泣き出した。 庇うようにまた一人… また一人と泣き出した。 ドンチャン騒ぎから一転、思い出話しで盛り上がった


 思い出話し… 苦しかった事が90%。 楽しかった事が10%有るか無いかという新隊員教育隊。 だけどね、楽しかった事ってあまり記憶に無いし、話題にも上がらない。 苦しかった事や辛かった事だけが走馬灯のように記憶から甦る。 それが今思えば楽しいんだ!! 皆で苦しんでのり越えた壁。 何ひとつとっても皆が共通する話題なので36名全員で笑って懐かしむ事ができた。
 酒もすすんだね! 高校時代に3度も飲酒で補導され、停学喰らってる606だったけど… こんな楽しい酒は初めてだった。 当たり前だけど、アルコールが苦手な隊員も今夜は酔ってる。 肩を組んで皆で歌った! 素敵な夜だった。

 帰りは駐屯地まで千鳥足。 正門に到着するまでに吐く仲間続出。 僕も吐いた。 
フラフラボロボロで正門を通過。 居室に戻るまで泣いてる隊員もいたなぁ。

 数日後… 僕は鯱のマークの部隊章を外した。 代わりに中部方面隊の部隊章を縫い付けて新隊員前期教育課程修了式に出ました。 珍しい部隊章や見慣れた鯱の部隊章が並びました。 中部方面隊の部隊章… 青地に『中』と書いてあるだけでイマイチ好きじゃなかったです。 でも珍しい部隊章だったので「これ何処の部隊?」という質問をたくさん受けた。 今で言うところの(セブンを見て)「これ何処の車?」という質問と同じレベルかな?

 修了式は入隊式みたいに、食堂で赤飯ランチなどありませんでした。 保護者も呼ばれません。 もちろん三河陣太鼓もなかった。 義務教育期間の1学期2学期の終了式みたいなもの。 
 体育館に普通に整列して、豊川自衛隊協力会とか豊川市長さんみたいな各方面の偉い人の話をダラダラ聞いてただけでした。  あまり記憶がありません。
 そのまま一列縦隊で体育館を退場。 「もう終わり?」みたいな感じで居室にもどりました。
防衛大学の卒業式みたいに制帽を高く投げ捨てるようなカッコイイ式ではなかった。 葬式みたいなものでしたわ。

 その後… 自分達の荷物を片付けた。 官品・私物…必要最低限の荷物しかないので片付けは容易かったです。  遠方に配属される隊員の荷物は輸送されます。 豊川駐屯地に残る隊員は違う居室に各自で運びます。 もちろん僕の荷物は輸送されました。  
 
 がら〜んとした思い出のたくさん詰まった居室。 トイレ・洗面所を次の新隊員に申し送りするために大掃除をした。 
「ここで半長靴を皆で磨いたね。」 「このイスに座ってテレビ見たね。」 「3ヶ月このベットで寝たんだ!」 万感の想いを込めて掃除をした。


 そして迎えの車に乗って一人一人消えていった。


 僕と3区隊の隊員にも迎えの車が来た。 班長は涙流しながら笑って見送ってくれました。 「俺はここに居るから、こっち帰ってきたら遊びに来いよ!」と…
 なぜか小隊長も声をかけてくれた。 「青野ヶ原駐屯地は幹部ばかりの駐屯地だからキチンと敬礼して皆に好かれるように頑張ってな!」と… もう涙が止まりませんでした。 終始優しい小隊長だった。 

 皆が見えなくなるまで手を振りました。
あれ? 
授業中はもちろん放課後も一緒に遊んで…一緒に入隊した高校の友達が見送りに来てへんがな(>。<)@

by606