18 戦闘訓練
 いきなりですが… 結果、これが前期教育課程の要!

 第二次世界大戦前から変わらないであろう『突撃』の訓練です!

 入隊した当時に3ヶ月間のスケジュール表で『戦闘訓練』という字を読んだ時は「サバイバルゲーム?」ぐらいにしか思っていませんでした。 まさか匍匐(ほふく)前進の訓練だと分かった時は驚きと落胆が半分半分でした。
 だってスイッチポン! ミサイルドン!の時代に鉄砲持って敵に近づいて行くだなんて無駄死にもいいところだと思ったので、まるでヤル気が起きなかった。 正直退職したかったぐらいです。

 いつものように散々『回れ進め!』を繰り返して… ヘトヘトになりながら連れて行かれた場所はランニングコースの内側の荒地。 所々に穴があったり小さな山があったりした荒地。
 区隊長・班長・班付が匍匐前進について説明を始めた。
匍匐前進には第1匍匐から第5匍匐まである。 文字で説明するのは難しいので、下手なりに簡単に説明します。
 
 敵から遠い所から第1匍匐が始まります。 姿勢は高くて進むのが速いし楽チンです。 第2…第3となるに連れて、敵に近づく訳ですから姿勢が低くなります。 弾が当たらないようにする訳ですね。 そして第5匍匐に至っては地面にベッタリ腹ばいになりながら、草を引っ張りながら…地面に顔を擦りつけながらミリミリと進む。 
 戦場で第5匍匐まで辿り着けるまでに何人戦死する事やら?? 第5匍匐で近づいて何をするのやら??

 ヤル気はなかったけど… この訓練って案外『楽』なのかも♪ って思いましたね。
戦闘訓練(第1匍匐から第5匍匐)を一度にやれる人数は、せいぜい5〜6人。 その間は見学してれば良いワケですから♪ しかも一人ずつ指導しながら進むワケですから、待ってる時間の方が遥かに長い。

 最初の日は第1から第5匍匐の形を教えられて終わりました。 馬鹿だと思われてるのか… 面倒くさいのか… 1時間ぐらい教育されたら10分か15分の休憩が与えられる自衛隊。 殆どの隊員がタバコ休憩です。 和気藹々と喋りながら、ウンコ座りをしながら戦闘服で喋ってる姿は暴走族か建築現場の下っぱみたいでした。

 とりあえず全員、第1匍匐から第5匍匐をマスターした。 べつに『回れ進め』を繰り返して、こんな遠く離れた場所まで来なくても、居室の廊下でも出来た匍匐前進の紹介だった気がしました。

 翌朝も『回れ進め』を繰り返して昨日と同じ場所である『戦闘訓練場』通称『訓練場』までやって来ました。

 今日は実際に匍匐前進をします。 
6人横一列になって班長の笛で第1匍匐から第5匍匐へとスイッチする仕組み。 まずは順番で班を作りました。
右手に64式小銃を持ち…第1匍匐の構えをして笛の号令を待ちます。 笛の合図で第1匍匐開始。 皆さん隣の隊員に負けじとスピードを上げて進みます。 
 次の笛の合図で停止。 班長が「第3班!第2匍匐!」と言う号令を発し… 僕らは大きな声で「だいさんぱーん!だい2ほふくーっ!!」と復唱しなければなりません。 声が小さいと何度も「第3班!第2匍匐!」と同じ号令をかけられます。 班長が満足したら笛が鳴って進みます。 その繰り返しで第5匍匐まで進むと… 体は結構疲れ、喉も枯れます。

 単純な訓練だけど結構キツイっす!
だけど… 天気の良い日に外で全力で遊んでる雰囲気がたまならく嬉しかったりします(^-^) 見えない敵に匍匐前進で近づく! 匍匐前進の最中に、次の号令がかかるまでは地面に顔をつけて待ってるワケなんだけど… 生まれてこのかた地面をこんな近くで長時間見た事なんてなかったから、いろんな発見がある。 地面には信じられないくらいたくさんの生き物が存在してました。 人間はただ大きいだけで、やってる事や考えてる事は小さな虫たちと同じなんじゃないのかな? って、平和に考えたりもしました。

 第5匍匐で最後ではありません。 ベッタベッタに這いつくばって、そのまま平っべたく小銃に銃剣を装着します。
64式自動小銃はさらに重くなるワケですが… 着剣した64式自動小銃は絵になるので僕は好きでした。 そして班長の『突撃命令』で立ち上がって「ワー!」とか「ヤー!」とか叫びながら敵陣に突撃。 最後は見えない敵兵士を突き刺す形をとって終了。

 まるでオナニーですわ。

 第1匍匐から第5匍匐… そして突撃までは結構『戦場』に居る妄想が働きます。 戦士になって戦場で戦ってるつもりになるから不思議! よくよく見渡せば、向こうの方では車が走ってるし電車の音も聞こえる。 だけど見えない敵陣から敵兵が自分に向かって撃ってきてる幻覚も見える。 限りなく妄想を働かせ、やがて突撃で勝利(絶頂)を得る…我に返った時には「何やってたんだろ俺?」という感じ。 イッた時と同じです。 頭の中は真っ白になってます。

by606