169 自衛官四方山話 掃除

 Q
 『掃除について』


 A

 自衛隊=掃除  僕は常々思った。  誰もがそう感じていたのではないかな?

 入隊したその日から居室・トイレ・洗面所の掃除を与えられた。  
 居室に関しては「丸く掃くな!」。  トイレ・洗面所に関しては「舐めれるぐらいにしろ!」。  トレイ・洗面所に関しては、いくら綺麗にしても舐めたくはなかったですがね。
 今思えば『掃除』という事を、ここまで真剣にやった事はなかった。  人生で初めて『掃除』というものを学んだのが自衛隊だったのかも知れない。 
 義務教育&義理教育の12年間、毎日学校の掃除はあったけど…  比べ物にはならない。  そりゃそうだよね!  掃除も給料の一部なんだもん。


 新隊員時代の掃除は朝晩。  そして日曜日は外出しない隊員で居室の床のWAXがけ。  月曜の朝は居室の床はもちろん、新隊員居室の廊下はWAXでピカピカになっているのが常識だった。
 WAXは専用のモップで塗り込み、ポリッシャーという床磨きの機械で磨き上げる。  このポリッシャーという機械は使い慣れれば扱うのは楽しいのだが…  初めて使う者は、必ずポリッシャーが暴れ馬と化してコードが引き千切れたり、置き物を破壊する。  洗礼とでも言うべきか?  まぁこのポリッシャーには4年間お世話になったわ。


 居室の掃除は皆で協力して行うのが当たり前。  でもそんな当たり前の事すらできない要領のイイ隊員は、自分の洗濯物を干しに行ったり、何処かに隠れて休憩したりしていた。  当たり前の人数の中で、居て当たり前の奴が居なければ、誰が要領かましてるか直ぐに分かる。  そういう奴はそれなりの扱いを受けるのが自衛隊。


 トイレ掃除は慣れるまでは本当に嫌でした。
 小便器は黄ばみが消えるまでサンポールとタワシを駆使して真っ白にしなければいけなかったし…
 個室の汚れは半端なく…  エロ本は片付けなければいけなかったし…  「なんで流さないのだろう?」というシーンも多々あった。


 掃除は居室・トイレ・洗面所だけではなかったです。  なんと自分のロッカーの中とロッカーの上に至るまでもが班長の指揮下。  ロッカーの中の制服が決められた順番・決められた位置に無いと全部放り出されます。  これもある意味での掃除でしたね。


 前期教育期間も後期教育期間も終了して居室から出る時は信じられないくらいの大掃除となりました。  朝から丸一日かけて床を磨いてWAXをかけてポリッシャーで磨き上げる。  WAXかけなんて一度で十分だと思うのに、3回ぐらい繰り返した記憶があります。
 ガラスも曇り1つ無い状態にまで磨き上げ…  蛍光灯なんて点灯管まで外して磨く始末。
 粗探し的に汚れていそうな箇所を班長が指で確認するシーンも自衛隊ならではかな?  これが『形ある申し送り』だった。


 毎日の掃除に週末のWAXかけは中隊に配属されても続きました。
 毎日の掃除は若干いい加減にはなったけど、陸士部屋の3つで手分けして毎朝毎晩必ず行う。
 営内陸曹はトイレ洗面所を使うだけ使って綺麗にしようとは思ってないようで、ワザと汚すような事をするから腹が立ちました。  過去に自分もやられたからなのかな?  人の痛みが分かれば、できるだけ汚さないように利用するだろうに。  大人気ないとさえ思った。


 真夏の一ヶ月間だったけど駐屯地指令(駐屯地で一番偉い人)の伝令(丁稚奉公)をやらされた。  この時は毎晩、一課と駐屯地司令室までの長い廊下を一人で掃除して一人でWAXかけをしていた。  もちろん駐屯地司令室の掃除がメインなのだけど…  誰が喜んで受けたのか?一課と会議室の掃除までもが組み込まれていたから大変だったなぁ。
 こんな性格だから駐屯地指令室と廊下は駐屯地指令が見るから手を抜かなかったけど、他の所は適当に済ませて、夜は駐屯地司令室でエアコンをつけて朝まで気持ちよく寝てた。


 年末の超大掃除は仕事納め(28日)の2〜3日前。  普通なら28日に大掃除をして〆!という感じですが…  とにかく半端ない大掃除でした。
 最後は駐屯地指令が各居室を巡回します。  丸一日かけて掃除してピカピカ艶々になった居室を、入り口からチラっと見ただけで「ご苦労さん。」と一言残して次の居室に進みます。  わずか5秒くらいの点検に一日を費やすのも自衛隊。


 ただ…  自衛隊を任期満了で辞める時はロッカーを掃除しただけでした。  小さな掃除だったけど、一番気持ちが込められた掃除だった。
 

 掃除に始まり掃除だらけの日々で、掃除で終わった自衛隊。  大勢で一斉に掃除するのは本当に楽しかったなぁ。
by606