126 ホークミサイル実弾実射訓練

 『HAWK』  Homing All the Way Killerの略。
 Yahoo!で翻訳すると『すべての方法殺人者を家に帰す事』となるみたい。  全然意味が分からないね。
 僕的には単に『地対空誘導ミサイル』としか思っていませんでした。


 新隊員前期教育課程(前期教育隊)が終了する間際に、新隊員後期教育課程(後期教育隊)への進路を決める時からの夢だったASP(ホークミサイル実弾実射訓練)への参加。

 「アメリカでミサイルをぶっ飛ばせれるぞ!」  前期教育隊の班長の一言で決めた高射特科部隊への道。
 辿り着いた駐屯地は全国の駐屯地で一番新しかったにもかかわらず、居室の窓の外からは木しか見えないような森の中にある駐屯地だった。

 後期教育隊では鬼の班長の下で発射機の整地撤去の繰り返し。  明けても暮れても「周囲よーしっ!」と叫んでいた3ヶ月間。

 中隊に配属されてからは同期生の倍(半年間)も居室では下っ端を務め…
 演習では自分の任務をこなす傍らで幹部の飯の支度をし…
 江藤の罠に苦しみ…
 あたしゃ〜小公女セーラかと思い悩んだ事幾年月。


 ASPに参加する事を目標に頑張ってきた感じ。
 
 大型牽引免許を取得するのも1つの目標だったけど…  やっぱりこのASPが自衛隊生活での一番の目標だった。



 2年に1回行われるアメリカ・ニューメキシコ州マックグレガー射場での実射訓練。  僕が中隊に配属された頃に「行きたい!」と…  身の程知らずの言葉を発した記憶があります。
 全く相手にされなかった。
 もっともな事。
 陸士クラスが…  しかも一等陸士になったばかりぐらいで…

 「陸曹にならんと無理だな!」  幹部に何気なく言われたこの一言は、僕にとっては何かが崩れるような一言でした。
ただでさえ次回は2年後だし、それに陸曹になるという事は自衛隊に永久就職をするという事。

 「アメリカでミサイルをぶっ飛ばせれるぞ!」なんて嘘じゃん!  なにかにつけて『条件』を付けるのが自衛隊。  夢を叶えるのなら人生賭けろ!って事なのか?  人生を自衛隊に賭けるほどの夢なのか?
 いろんな葛藤も一晩寝て朝には忘れてる18歳でした。

 ところが!

 この年のASP参加者名簿には僕の名前が載っていたので驚きました。
 一等陸士になりたての隊員がASPに参加!  前代未聞じゃねーの?  前期教育隊の班長が手回ししてくれたのかな?  自分の才能?  これぞエリート?  
 自分の目を疑い、手と足が震えるほど驚いた。  心臓なんて一気にオーバーレブ状態だったし…。

 で…  肝心の任務欄を見たら…  『訓練支援』と書かれていました。  発射手じゃないし…。
 訓練幹部に「訓練支援って何をするのですか?」と尋ねたら、「訓練場での雑用係だよ。」と冷めた口調で笑いながら言われて…  僕も夢から覚めましたわ。


 そんな訓練支援という任務は想像を絶する重労働だった。
 訓練が始まる前に訓練場に行って発射機やレーダーのカバーを全部外して、テント設営・長机を立ててイスを並べて…  〆は幹部にコーヒーを出す。 

 訓練中はコーヒーカップを洗ったり、お湯を沸かしたりした後は休憩時間。  長い長い休憩時間です。
 目の前でやってる事は演習となんら変わらず…  服装が軽装なだけかな?  プラスチックのヘルメットだったし。  やたらめったら英語が飛び交っていた。  そりゃそうだよね。  米軍の指揮下で実射するんだもん。


 訓練が終わったらテント撤収。  机とイスを片付けて、発射機とレーダーにカバーを被せてから帰ります。  4人でやっていたけど…  全然ヤル気無かったなぁ。


 1ヶ月間ぐらい雑用の日々でした。  雨の日は代休をとってASP要員と一緒に休みました。  中隊全部がASPモードなので、ASP要員が休めば中隊全部が休みになるようなもの。

 そんな訓練も最後はプレASPと題してミサイル発射までの一連の動作を陸上幕僚幹部の前で披露します。  その時の雑用係はスッゲー忙しかったです。  でも…  そんな雲の上の階級の方から「君も再来年はASPに参加できたらいいね♪」と直々に言われた。  直立不動のまま「はい!」としか答えられず…  参加したくても永久就職だし、陸曹になるには再来年じゃ無理だし…  心中複雑でした。



 その後、中隊のASP要員は食堂で激励会が行われ…  翌日、駐屯地全隊員に見送られてニューメキシコ州エルパソに向けて出発しました。  制服の胸に留められた日の丸のバッヂがキラキラと眩しかった。  羨ましかった。
 でもその時は『訓練支援』という雑用以下の任務から解放された喜びのほうが、『眩しかった!』 『羨ましかった!』という気持ちよりも強かったのが本音。


 それからそれから数日後…
 『ミサイル命中!』という知らせが駐屯地に届き、駐屯地指令から各居室に放送が入りました。  とりあえず拍手はしたものの…  『命中』の意味が分かりませんでした。

 聞くところによると、大きな模型飛行機を敵機と見做して、その模型飛行機に向けてミサイルを発射するらしい。  この事を聞くまでは、ただ単に砂漠のド真ん中でミサイルを発射するだけの事だと思っていた僕。  実戦さながらの射撃訓練だったのね。


 それからそれからそれから数日後…
 ASP要員が帰って来ました。  駐屯地の正門には『祝! 命中!』と書かれた大きな旗を掲げられ…  またまた駐屯地の全隊員が拍手で迎え入れました。  嗚呼…  やっぱりイイなぁ。  憧れる。


 ASP要員は馴染みがある隊員には個人的にお土産を買ってきていました。  まるで進駐軍から手渡されるようにマカダミアンナッツを貰いました。  この時が人生初のマカダミアンナッツ。
 雑用係だったという事で、ARMYと書かれたTシャツやジッポライターなども貰ったけど、Tシャツは恥ずかしくて着れないし…  ライターを貰ってもタバコ吸わないし…  バドワイザーのDRYが欲しかったなぁ。
by606