115 大型免許牽引免許取得

 大型免許を取得して3ヵ月後に松山駐屯地に再び移動。  江藤の顔をさらに1ヶ月(都合7ヶ月)見なくてすむ。  そう!  大型免許を取得するには3ヶ月かかったけど、大型牽引免許は1ヶ月間の教習です。


 「牽引免許は楽しく取れるからいいぞぉ!」  と言う先輩。
 実際、高射特科部隊は装甲車に必ず発射機とかレーダーとかを牽引して演習を行うので、大型牽引免許は必要な免許なのです。  正直言えば自衛隊を辞めた後で大型牽引免許なんて必要ないと思っていたから個人的には不要だと思っていました。
 大型免許を取得して普通車に乗れればコレ幸い程度にしか考えてなかったもん。


 瀬戸大橋を渡って、松山駅からまたまた教習車で駐屯地入り。  懐かしくも苦い思い出の多い松山自動車教習所…  昔と同じような始まりだったけど、大きな違いが1つだけあった。  それは教官の雰囲気。  大型免許を取得しに来た時は、教育隊長以外は殺気立ったオーラを放っていたのに、なぜか全教官が笑顔を放っている。  返って怖いけど…  コレは罠でもなんでもなかった。  普通の笑顔でした。


 「本多ぁ。 久しぶりやのぅ。 今度は坂道発進はないから気楽にいこうのぅ!」と教官…  もう言うなよ!って感じ。


 教習車に箱型のトレーラーを牽引して毎日実技教習。
 大型車にトレーラーを牽引して前進するだけなら、それほど苦はありません。  曲がるときの内輪差が大きくなるので、歩行者などの巻き込みに注意するだけ。  車両感覚さえ覚えれば普通に走れました。


 問題は牽引バック。  普通に真っ直ぐ後退するだけでも困難だという事を初めて知りました。  縦列駐車こそ実技にはありませんでしたが、バックで車庫入れができなければ卒業できません。  これはコツを覚えれば簡単にできる事けど…  そのコツを覚えるまでが大変でした。


 『ハンドルを切った反対側にトレーラーが動く』  この単純な方程式が飲み込めない。

 『ハンドルを切り続けたらトレーラーがジャックナイフ状態になって修正不能になる』  たかがバックに足し算・引き算・掛け算・割り算をいちいちやりながらハンドルとアクセルでトレーラーを車庫に入れる。
 もの凄く頭を使った。  頭では分かっていても体が反応しない。  


 何度やっても思うようにトレーラーを振れませんでした。  だけど教官は「はい。 もう一回最初から。」と優しい。  車庫入れの囲いにぶら下がってるポールにHITしようものならグーが飛んできて普通なのに…  スッゲー優しい。
 一日頑張っても全然できなかったのに、「はい。 じゃあまた明日頑張ろうのぅ。」と…。


 教習が終わって国旗が降りたら丸ごと自由時間でした。  学科教習がないから当たり前ですがね。  皆でテレビ観たり、喫茶店で寛いだりして有意義な課業後を過ごせました。  まるで自分の中隊に居るみたい。  煩わしい上官がほとんど居ないから凄く楽だったなぁ。


 牽引バックのコツも教官の指導の下、いつしか身につけ…  教官が横に乗っていなくても一人で右から左からトレーラーを車庫にぶち込む事ができるようになりました。  楽ではなかったけど、楽しく学ぶ事ができたのは凄く嬉しい。
 それにしても教官の変貌ぶりには驚いたよ。


 牽引バックは短い時間で誰もが習得できました。  この1ヶ月間で一番思い出深いのが、『班対抗リレー大会』というマラソン大会。  もっとも僕らの班の教官は、少し前まで鉄人レースに参戦していたほどの隊員。  もちろん言い出しっぺは僕らの教官。
 僕たち6人で順番を決めて、アンカーは教官を走らせる段取り。  面白い事に僕たちの班は足が速い奴らが集まっていたので、最初から優勝候補でした。


 1ヶ月が過ぎようとしている土曜日。  班対抗リレー大会は開催されました。
 余裕綽綽だった僕らの班でしたが、班が6つもあれば何処かに速いチームもあるものでして…  2つのチームの接戦!  最後は教官が余裕のブッチギリでゴール。  あんな笑顔の教官を見たのは最初で最後だった。
 教官いわく「こんなに盛り上がった牽引課程は今までになかったわい!」と♪  胴上げしたかったけど、6人でヘビー級の体を持ち上げるのは無理だった。


 人生に不要だと思った大型牽引免許。  不思議なものですね〜。  今やトレーラーにSEVENを積んで配達号で牽引している。  車庫入れには凄く役に立っています。  大型牽引免許で稼ぐ事はできないけど、遊びで役に立っている今日この頃。
 もちろん演習では真っ暗闇&凸凹道での牽引バックで更に鍛えられました。  何度も何度も演習中に叱られたりしてね。


 4ヶ月間という短い時間だったけど、松山駐屯地には計り知れない思い出があります。
 
 そして演習中にまたまた調子にのって装甲車を横転させる事故を起こす僕。  その話はこれから先の『演習の思い出』にて。
by606